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2026.09.26

塩分を溜め込む「縄文人のDNA」?――高血圧リスクと古代のサバイバル遺伝子

塩分を溜め込む「縄文人のDNA」?――高血圧リスクと古代のサバイバル遺伝子

塩分を溜め込む「縄文人のDNA」?――高血圧リスクと古代のサバイバル遺伝子

縄文人と弥生人の遺伝的な違いは、現代日本人の塩分感受性に関係しているのか?

「日本人は塩分を摂りすぎる」。

健康について語るとき、よく耳にする言葉です。

味噌汁、醤油、漬物、干物、梅干し、麺類……。

日本の食文化には、塩を利用した食品が数多くあります。

そして、食塩の摂りすぎは血圧上昇と深く関係しています。

では、私たち日本人の「塩との付き合い方」は、いつから始まったのでしょうか?

さらに一歩踏み込んで、

縄文人と弥生人の遺伝的な違いは、現代日本人の「塩分感受性」に何らかの影響を与えているのでしょうか?

これは、実はまだ完全には答えが出ていない興味深い問題です。


まず、縄文人と弥生人は遺伝的に違う

現在の古代DNA研究によって、縄文人と大陸から渡来した人々の間には、明確な遺伝的な違いがあることが分かっています。

近年の研究では、現代日本人の形成を、

  • 縄文人に由来する祖先成分
  • 北東アジアに関連する祖先成分
  • 東アジアに関連する祖先成分

という複数の祖先成分から説明する「三重構造」のモデルが検討されています。

2024年に発表された大規模研究では、17万を超える日本人のゲノムと古代人ゲノムを組み合わせ、現代日本人のゲノムにおける縄文祖先の割合には地域差があることが示されました。研究では、縄文祖先の割合は地域によって大きく異なり、現代日本人の遺伝的多様性に縄文祖先が重要な影響を残していることが示されています。

さらに2024年に発表された山口県・土井ヶ浜遺跡の約2300年前の弥生人の全ゲノム解析では、弥生時代に朝鮮半島から渡来した人々と縄文人との混血が、現代日本人の祖先集団の形成に関わったことが示されています。

そして2026年1月には、長崎県の西北九州弥生人4個体の核ゲノム解析も発表されました。

その4個体のうち2個体は縄文人とほぼ同じゲノム成分を持ち、残り2個体には縄文人由来と渡来人由来の双方の成分が確認されました。

つまり、

「弥生人」という一つの遺伝的なタイプが存在した

と単純に考えることもできません。

弥生時代の人々にも、地域によってかなり大きな遺伝的多様性があったのです。


では、縄文人は「塩の少ない時代」に生きていたのか?

ここで、今回のテーマに大きなヒントがあります。

縄文人は海と深い関係を持つ生活をしていました。

もちろん、すべての縄文人が海辺に住んでいたわけではありません。

山間部や内陸部の集団も存在し、食生活も地域によって大きく異なっていました。

しかし、沿岸部では魚介類などの海産資源が重要な食料となっていました。

そして、さらに驚くことに、

縄文時代には、すでに海水から塩を作っていた証拠があります。

たとえば茨城県土浦市の上高津貝塚からは、縄文時代晩期に海水を煮詰めて塩を作るために使用された「製塩土器」が出土しています。

宮城県の里浜貝塚からも、約2500年前の縄文時代晩期に海水を煮詰めて塩を作るために使われた製塩土器が確認されています。

農林水産省も、日本における製塩の歴史は縄文時代後期から晩期前半にまでさかのぼり、縄文時代には土器製塩が行われ、弥生時代には各地で製塩が行われていたと紹介しています。

つまり、

縄文人=塩を知らなかった

というイメージは、まったく正しくありません。

むしろ縄文時代の日本列島では、地域によって海産物を利用し、さらに海水から塩を取り出す技術まで存在していたのです。


「縄文人は塩分を多く摂っていた」と言えるのか?

ここは慎重に考える必要があります。

海の近くに住んでいたからといって、その人々が必ず大量の塩を摂取していたとは限りません。

魚介類を食べていたとしても、現代のように醤油や味噌、加工食品などから大量の塩分を摂る食生活とは大きく異なります。

また、縄文時代の製塩も、日本列島全域で同じ規模で行われていたわけではありません。

したがって、

「縄文人は高塩分食だった」

と一括りにすることはできません。

重要なのは、

縄文人の生活圏には、海産物や海水というナトリウム源が存在し、地域によっては塩を生産する技術もあった

ということです。


弥生人は「塩分の少ない大陸」から来たのか?

これも、単純には言えません。

「大陸には塩が少なかったから、弥生人は塩分不足だった」という説明には根拠がありません。

大陸には地域によって岩塩、塩湖、塩泉などさまざまな塩資源があります。

そもそも弥生時代の渡来人も、どの地域から来たのか、どのような食生活をしていたのかが一様ではありません。

さらに、日本列島に渡来した人々が縄文人と混血していく過程も、地域によって異なっていました。

そして重要なのは、

弥生時代にも日本列島で製塩が行われていた

ということです。

日本遺産の資料でも、日本の土器製塩は縄文時代に始まり、弥生時代中期以降には各地で盛んに行われたことが紹介されています。

したがって、

縄文人=塩が多い
弥生人=塩が少ない

という比較はできません。


では「塩分を溜め込むDNA」とは何なのか?

ここからが、今回の本題です。

人間の体には、ナトリウムを調節する精巧な仕組みがあります。

ナトリウムは生命維持に不可欠な電解質です。

体液量、神経、筋肉などの働きにも関係しています。

そのため、腎臓を中心として、

必要なナトリウムは体内に保持し、余分なナトリウムは尿として排出する

という仕組みが働いています。

言い換えれば、人間の体にはもともと、

「塩を簡単に捨てない仕組み」

が備わっています。

これは縄文人だけに存在する特殊な機能ではありません。

人類に広く備わった生理的な仕組みです。


「塩分感受性」という個人差

さらに重要なのが、

「塩分を摂ると、どのくらい血圧が上がるのか」

には個人差があるということです。

これを、

食塩感受性(salt sensitivity)

と呼びます。

同じ量の塩分を摂取しても、血圧が大きく上昇する人もいれば、変化が比較的小さい人もいます。

この違いには、

  • 腎臓のナトリウム処理
  • 血管の反応
  • ホルモン
  • 年齢
  • 体重
  • 食生活
  • ストレス
  • 遺伝的要因

など、さまざまな要素が関係しています。

つまり、

「塩分を摂ると血圧が上がりやすい体質」には、遺伝的な要素も関係している

のです。


実際に「塩分感受性」に関係する遺伝子が研究されている

ここは、今回の「縄文DNA」というテーマにつながる重要なポイントです。

これまでの研究では、

ACE

AGT

ADD1

CYP11B2

GRK4

など、ナトリウムの輸送や血圧調節に関係する遺伝子について、食塩感受性との関連が研究されてきました。

日本人を対象とした研究でも、たとえばCYP3A5などの遺伝的な違いと塩分摂取・血圧との関係が調べられています。

つまり、

「塩分感受性には遺伝的な背景がある」

ということ自体は、かなりしっかり研究されています。


では、それは縄文人のDNAなのか?

ここで、一度立ち止まります。

現在分かっているのは、

① 縄文人と大陸系集団には遺伝的な違いがある

そして、

② 塩分感受性や血圧調節には遺伝的な違いが関係する

ということです。

しかし、

①と②が直接つながっている

とは、まだ証明されていません。

つまり、

「縄文人に塩分を保持しやすい遺伝子があった」

「その遺伝子が弥生人には少なかった」

「その結果、現代日本人は高血圧になりやすくなった」

という一連のストーリーを、現在の科学的知見から事実として断定することはできません。

食塩感受性に関係する遺伝子は複数存在し、その影響も複雑です。しかも、遺伝だけでなく環境や加齢、肥満なども関係しています。研究レビューでも、食塩感受性の遺伝的決定因子はまだ十分に解明されていないとされています。


それでも「縄文人のDNA」に注目する意味

では、なぜこのテーマを考える価値があるのでしょうか。

それは、

古代DNA研究が、現代人の体質との関係を少しずつ明らかにし始めているからです。

実際、2024年の大規模研究では、縄文祖先の割合と現代日本人のBMIとの間に関連が見つかりました。

研究では、縄文祖先に由来するゲノム配列の中に、現代における肥満リスクに関係する可能性のあるものが存在することも示されています。

これは非常に興味深い発見です。

なぜなら、

「古代の祖先集団の遺伝的特徴が、現代人の身体的特徴と関係する可能性がある」

ことを示す一例だからです。

ならば、

縄文祖先の遺伝的特徴と、現代日本人の塩分感受性には関係があるのだろうか?

という問いが生まれるのも自然です。

ただし、これは今後検証されるべき研究課題です。


「塩を保持する能力」は、もともと悪いものではなかった

ここで、もう一つ重要な視点があります。

「塩を溜め込む」という言葉を聞くと、現代人にとっては悪いことのように感じます。

しかし、進化の視点から見ると、必ずしもそうではありません。

人間にとってナトリウムは必要不可欠です。

もし食料から十分なナトリウムを得られない環境であれば、

ナトリウムをできるだけ失わない身体

は、生存に有利だった可能性があります。

つまり、

「塩を保持する能力」は、病気のために存在したのではなく、生きるために必要だったのではないか?

という視点です。

これは「縄文人特有の遺伝子だった」と証明されたわけではありません。

しかし、人類の進化と環境適応を考える上では、とても興味深い仮説です。


古代には「生存戦略」、現代では「高血圧リスク」?

ここに、今回のタイトルの「サバイバル遺伝子」という言葉の意味があります。

古代の人々にとって、

食料やミネラルを確実に手に入れられるとは限りませんでした。

一方、現代の日本では、

  • 醤油
  • 味噌
  • 漬物
  • 加工食品
  • インスタント食品
  • 麺類
  • 外食

など、ナトリウムを簡単に摂取できる食品が数多くあります。

つまり、

「ナトリウムを保持する身体の仕組み」そのものが変わったのではなく、身体を取り巻く環境のほうが大きく変わった

と考えることができます。

古代の環境と現代の環境。

この大きなギャップが、現代の食塩感受性や高血圧を考える上で重要なのかもしれません。


縄文人と弥生人――「塩」から見る日本人のルーツ

ここまでを整理すると、次のようになります。

縄文人

狩猟・採集・漁撈を組み合わせた生活。

地域によって海産物を重要な食料として利用。

縄文時代後期~晩期には、海水から塩を作る製塩も行われていました。

弥生人

大陸から渡来した人々と縄文系集団との交流・混血が進行。

稲作を伴う社会変化が起こり、食料生産の構造も変化。

ただし、弥生人にも大きな地域差・遺伝的多様性があり、「弥生人」という一つの均質な集団として扱うことはできません。

現代日本人

縄文系と大陸系の複数の祖先成分を受け継ぐ集団。

縄文祖先の割合には地域差があり、現代人の身体的特徴との関連も研究されています。

そして、

食塩感受性には遺伝的要因が関係することが分かっている。

しかし、

「縄文系だから塩分感受性が高い」

あるいは

「弥生系だから高血圧になりにくい」

というところまでは、まだ言えません。


では、タイトルの「?」は何を意味するのか?

塩分を溜め込む「縄文人のDNA」?

この「?」は、非常に大切です。

それは、

「縄文人に特別な塩分保持遺伝子があった」という結論ではありません。

むしろ、

縄文人と弥生人には遺伝的な違いがある。

現代人の塩分感受性にも遺伝的な個人差がある。

では、この二つはどこかでつながっているのだろうか?

という、未来につながる問いなのです。


古代のサバイバル遺伝子は、現代ではどう働いているのか

人間の身体は、何千年、何万年という時間をかけて環境に適応してきました。

縄文人が暮らした日本列島。

大陸から人々が渡来し、稲作が広がった弥生時代。

そして、現代の豊かな食環境。

私たちの身体に残っている遺伝子は、こうした長い歴史の積み重ねの上にあります。

かつて生存に役立った身体の仕組みが、現代の環境では別の意味を持つこともあります。

それは「悪い遺伝子」という話ではありません。

むしろ、

「人間の身体は、過去の環境を背負ったまま現代を生きている」

ということなのかもしれません。

縄文人のDNAが、現代日本人の塩分感受性にどこまで関係しているのか。

その答えは、まだ出ていません。

しかし、古代ゲノム研究が進めば、

「私たちの身体は、祖先がどんな環境で生きてきたことによって形づくられたのか?」

という問いにも、少しずつ答えが見えてくるかもしれません。

そしてそのとき、

縄文人と弥生人の違いは、単なる「昔の人の違い」ではなく、現代を生きる私たち自身の身体を理解する手がかり

になる可能性があります。

それが、「縄文人のDNA」から塩分と高血圧を考える意味なのです。

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